私はかつて、性格をはじめとする心の働きは完全に後天的なものだと考えていました。

しかし、行動遺伝学の最新の研究成果によれば、パーソナリティの遺伝率は40%とされています。これは「特定の社会における表現型の全分散のうち、40%は遺伝子型の分散で説明できる」ということです。
パーソナリティは多因子遺伝であり、複数の遺伝子の相互作用によって決定されるもので、単純に親から40%受け継がれるという意味ではありません(エピジェネティクスや突然変異も関与します)。
遺伝によってすべてが決まるわけではなく、パーソナリティの例で言えば、残りの60%は環境要因ということになります。ただし、遺伝子という外生変数が関与しない行動はなく、環境要因にも遺伝が間接的に影響を与えることが多くあります。これは「遺伝と環境の交互作用」と呼ばれています。

いわゆる一流/超一流の能力の発現については、身体的形質、心理的形質、環境的要因が必要であると理解できます。
例えば短距離走者の場合、速筋の割合の多さや骨格のバランス、ストライドの長さといった身体的形質、粘り強さやセルフコントロール能力といった心理的形質、そして早期に競技に出会えるかといった環境的要因が必要となるでしょう。
また、研究者を例にとると、一般知能の高さやワーキングメモリの容量といった身体的形質が必要です。ちなみに知能の遺伝率は50%とされています。好奇心の強さなどの心理的形質も必要でしょうし、早期に適切な教育を受ける機会といった環境要因も重要です。
前述したように、遺伝と環境には交互作用があるため、社会性が高いほうが競技と早期に出会える可能性が高まるかもしれませんし、内向性が高いほうが深い思索を行う頻度が増えるかもしれません。

「努力すれば誰でも超一流になれる」わけでもなく、「才能(遺伝)ですべてが決まる」わけでもありません。身体的な形質だけでなく、心理的形質も重要であり、そこにも遺伝が関わっています。さらに環境も心理的形質によって変化します。そこには複雑な相互作用が存在していることが研究ベースでも明らかになっていることを知ることができ、大変勉強になりました。