久しぶりにミステリー小説を読みました。本稿では「フェイク・マッスル」の感想と一部内容に触れていきます。

「フェイク・マッスル」は第70回江戸川乱歩賞の受賞作の一つです。
江戸川乱歩賞は日本推理文学界における新人作家の登竜門として広く認知されているようです。普段あまり小説を読まない私は「フェイク・マッスル」を機会に知りました。既に第71回が実施されており、その受賞作も面白そうです。

選考委員には、東野圭吾さんや湊かなえさんといった作家陣が名を連ねています。湊かなえさんの「C線上のアリア」を積読していることを思い出し、これを機に読もうと改めて思いました。

あらすじ

かつて痩身であった男性アイドルが、わずか3ヶ月のトレーニングでボディビルの大会において3位という驚異的な成績を収めます。
この急激な肉体改造に「不自然だ」「偽りの筋肉だ」とSNS上の識者からドーピング疑惑が浮上します。しかし、本人はその疑惑をきっぱりと否定し、「会いに行ける」パーソナルジムをオープンします。
週刊誌の新人記者・松村は自分のキャリアの命運がかかった潜入取材を試み、疑惑の究明に挑みます。

小説の構成と読後感

本作は主に新人記者・松村の一人称視点で展開されますが、竹中という女性の視点も織り交ぜられます。

詳細な情景描写や内面描写を排した文体により、ストーリーの流れが明快で、核心となる謎解きに集中して読むことができました。読了にかかった時間は約2時間程度でした。

物語の終盤には「くぅ〜〜そういうことだったのか〜〜」と思わず唸ってしまう見事な伏線回収があり、私の推理は完全に覆されました。ただ、筋肉に明るい(?)人は、より早い段階で真相を見抜く可能性もあるかもしれません。それもまた本作の魅力の一つだと思います。

一方で、個人的な嗜好を述べるなら、焦らされるような展開や読者の緊張を高めるような心理描写がより充実していれば、さらに深い没入感を得られたのではないかと感じました。例えば、採尿計画が思うように進まず、隣で用を足すふりをしながら、大峰さんを悔しげに横目で見つめる…のような展開があったりとか。

と述べてはみましたが、そうした描写の追加は、本作の特徴である読みやすさやテンポの良さを損なう恐れがありそうです。小説創作においては常に様々な要素のバランスが求められるものですよね。

印象的な場面

大峰さんの採尿を試みる第3章は、滑稽で面白かったです。本編の中で大真面目に描写されているのも相まって、読みながら笑みが溢れてしまいました。 もし、映像化されることになれば、ショールームや排水トラップの加工検討、トイレでの作業のくだりにどうしても期待してしまうと思います。

大峰の採尿を試みる第3章は、特に印象的でした。 大真面目に描写される滑稽な状況が絶妙で、思わず笑みを誘う場面となっています。 もし本作が映像化されるならば、ショールーム見学や排水トラップの改造検討、トイレでの緊張感漂う一連の行動などに期待してしまうのは必至と思います。

映像化されてほしい…!