結婚の社会学

『結婚の社会学』阪井 裕一郎|筑摩書房筑摩書房『結婚の社会学』の書誌情報https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480076144/ 本書の冒頭で、社会学とは「社会の在り方や人間の行動を解明するために常識を疑うことである」と定義しています。 結婚にまつわるステレオタイプがどのように形成されていったか、と歴史を紐解いていくところから始まります。 江戸時代から現代にかけて、日本における「結婚」の形態はどう変化してきたのか。諸外国との比較ではどうなのか。明治時代の外交政策や技術発展が価値観にどのような影響を与えたのか、その変遷を概観できたことは非常に興味深い体験でした。仲人を介した結婚は、明治時代における武士的儒教道徳の浸透や交通手段の発達、さらに明治政府が「家」を基盤とした国家構想を持っていたことから広まったものです。一方、江戸時代の村落共同体(全体の9割を占める)での結婚プロセスでは夜這いが主流だったという事実は衝撃的でした。このように、長く伝統として根付いていると思われているものが、実は近代以降に生まれたものであることが少なくありません。また、神社で行う神前式も伝統的な印象がありますが、実際には欧化政策の中でキリスト教式を模倣して作られたもので、高度成長期に急速に普及したとのことです。 このような、歴史的に古くからあるように見えて実は比較的近代に作られた伝統や慣習は「創られた伝統(Invented Tradition)」と呼ばれています。私たちの日常にも多く潜んでいるのかもしれません。自分のステレオタイプを疑ってみると、そこには興味深い発見が隠されているかもしれないのです。 結婚が「家」同士の結びつきから「個人」同士の結びつきへと変化したのは戦後のことです。ここからようやく、私たちが馴染みのある世界に近づいてきます。 1970年代までは見合い結婚が多数派でしたが、1970年代以降は恋愛結婚が主流になりました。私の世代で考えると、祖父母の時代には恋愛結婚は少数派でしたが、両親の世代では恋愛結婚が「普通」になっていたようです。 第3章では離婚について詳しく掘り下げられています。特に印象的だったのは「足入れ婚」と呼ばれる慣習です。当時の結婚は「家の維持」が第一目的だったため、子を産めない場合、嫁は離婚されることになりました。しかし明治民法では離婚に双方の親の許可が必要となり、離婚のハードルが高くなりました。そのため結婚に慎重にならざるを得ず、嫁はまず半分入籍したような状態で過ごし、子どもを授かってから正式に結婚するという流れがあったのです。これは現在の「できちゃった婚」に近い流れがあることが非常に興味深く感じられました。 第4章では日本の結婚史から視点を広げ、諸外国における結婚と出産・子育ての分離について論じられています。諸外国で婚外子が多いという事実は知っていましたが、その背景までは理解していませんでした。そこにはパートナーシップ制度の充実があり、結婚以外の多様な共同生活形態を法的に認めていることが深く関わっていることが分かりました。 日本においても、法的に認められた共同生活が「結婚」だけで十分なのか、という問いを考えるきっかけとなりました。

2月 15, 2025 · 1 分 · 44smkn