スキンケアの科学 科学的に正しい皮膚の話
私は思春期の頃からずっとニキビに悩まされています。たくさんあるわけではないですが、常に2つか3つはあります。たまに訪れるニキビが1つもない期間は軽く飛び跳ねるほど嬉しいです。
スキンケアに関しては、ネット上の記事や書籍が多く存在します。しかし、(思い込みもあるかもしれませんが)主観が入り混じっていたり、個人の経験則に基づいた語りやポジショントークが多いように感じられました。
私は、肌の構造や基礎化粧品が何をどのように担っているかを、語ってくれる書籍をまず読みたいと思っていました。
こういう時にぴったりなのが、講談社の新書レーベルの1つであるブルーバックスですよね。 ブルーバックスからスキンケアで一冊出ていないかなと定期的に確認していたところ、11月に「スキンケアの科学」というタイトルで出版されているではありませんか。早速読んでみました。
個人的に特に面白かったところを3つ挙げてみます。
惜しむらくは、私が読む動機の1つであったニキビに関してはあまり触れられていなかった点です。一方で、肌の基本的な構造や肌荒れを起こしやすい状況については理解できたので、ここから深堀りすることができそうです。
第8章では、スキンケア化粧品の活用に関するEBDM(Evidence Based Decision Making)に言及されています。今後スキンケアの商品を買う時に参考になりそうな 化粧品成分オンライン の存在を知ることができたのは良かったです。
「ターンオーバー」「セラミド」「コラーゲン」「ヒアルロン酸」とは何か
何度も耳にしたことがあるのに、何一つ分からない横文字たち。商品の訴求にこれらの単語が入っていると、なんとなく「良さそうだぞ」と思ってしまいますが、この本をきっかけに解像度を上げていきたいところです。
皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層構造です。
暑さ0.2mmの表皮は4層構造になっており、深い部分から基底層、有棘層、顆粒層、角質層と呼ばれています。
表皮の95%を占める角化細胞は基底層から分化/成熟しながら、表面に移行していきます。角質層を形成する細胞に分化する際に細胞核が失われます。いわば死んだ細胞です。
角質層では細胞がゆるく積み重なっているため、簡単に剥がれ、垢となって剥離します。
基底層から始まり、角層剥離に終わる、合計約45日間のサイクルを「ターンオーバー」と呼びます。「ターンオーバー」が低下すると、死んだ皮膚が堆積して不均一な肌になるそう。肌の透明感というのは、皮膚の内部まで入った光がどのくらい反射されるかで決まるようです。「ターンオーバー」の遅滞は皮膚内部に光を吸収する物質を増やしてしまうのだと私は理解しました。
ちなみに、紫外線が皮膚にあたると、基底層にあるメラノサイトがユウメラニンを生成します。ユウメラニンは、UVB、UVA、そして可視光線を吸収します。ほとんど光を反射しないので、日焼けした肌やサハラ以南にルーツを持つ人の肌が黒く見えます。
夏に肌が焼けて黒い人が冬にもともとの肌の色に戻っているのは、「ターンオーバー」によって一時的に増えたユウメラニンを受け取った細胞が剥離したからと予想できます。
「セラミド」は角層細胞間を接着する脂質の1つで50%を占めています。肌の水分含量を保つために、蒸散を防ぐ役割を持っています。たま〜に耳にするナイアシンアミドなるものは、セラミドの合成を助け、肌のバリア機能を改善することが本書で指摘されています。
「コラーゲン」と「ヒアルロン酸」は真皮の構成物質です。真皮は表皮と皮下組織の間に挟まれた2mmほどの層です。
コラーゲン繊維が真皮の構造を作り、エラスチンという物質がコラーゲン繊維を束ねる役割を担い、ヒアルロン酸は2つの遷移が作る網目の間に存在します。
コラーゲンやエラスチンは肌の弾性に影響しており、減少や劣化がたるみにつながるようです。ちなみに、コラーゲンは体内のタンパク質の1/3を占めており、皮膚だけでなく腱や骨等々と用途に合わせて使いまわしているようです。凄い。
ヒアルロン酸は真皮の柔軟性やふっくら感に寄与しており、なんと1gにつき6Lの水を含むことができるようです。赤ちゃんのおむつみたいだ…。
ヒアルロン酸は保湿剤に含まれることが多いです。保湿力、抗酸化作用、コラーゲンの産生促進といった効用があります。保湿剤に引っ張りだこであることに納得です。
紫外線が肌の敵すぎる
内因性老化(自然老化)を加速させる外的要因として、紫外線、大気汚染、ストレス、食事、喫煙、アルコール等々があります。中でも紫外線は「最大の敵」として挙げられています。
光は電磁波です。ちなみに、本書の内容から外れますが、「光は粒子なのか?波なのか?」という論争が以前はありましたが、光の干渉の発見とマクスウェルの予言の証明によって決着がついたそうです 1。理系ですが、うっかり素朴物理学2に頼ってしまいがちな私は、いまだに粒子っぽいイメージを持っています。
紫外線は可視光線の紫の光よりも波長が短いものを指します。電磁波は波長が短いほどエネルギーが高く、波長の短い紫外線は人体に有害です。
波長が短い順に、UVC / UVB / UVA と分類されますが、UVCはオゾン層に吸収されるため、私たちのもとに届くのは UVB と UVA です。オゾン、おまいだったのか。UVCを吸収してくれていたのは。
日本の緯度では、オゾン全量が1980 年レベルまで回復するのは2040年頃になるようです ref。社会の教科書での扱いも、私の時代で言うところの高度経済成長期の公害と同じように、過去の出来事のように変わるのでしょうか。
紫外線の悪影響として以下の2つが指摘されています。
- DNAの損傷
- 紫外線のエネルギーを吸収した分子が高エネルギーの不安定な状態になり(励起)、分子との結合を起こしてしまう
- DNAを構成する核酸塩基3は紫外線を強く吸収してしまい、例えば隣り合うシトシンがくっついてしまったり(二量体)してワトソン・クリック塩基対形成が破綻してしまい、ひどいときには細胞死に繋がってしまう
- 活性酸素の発生(Reactive Oxygen Species = ROS)
- 紫外線があたり発生する分子の1つである活性酸素は反応性が非常に高く、望ましくない化学反応をおこしてしまうそう
- 最も厄介なROSがヒドロキシ・ラジカル(・OH)で、脂質 / タンパク質 / DNAに影響する
- 一例では、体内のエネルギー源や細胞膜を構成する脂質をどんどんと過酸化脂質へと変えていくことが挙げられている。過酸化脂質はシミやシワ、動脈硬化、脳卒中etcの原因になりうる
- アスコルビン酸(ビタミンC)の働きによって、無害化されるので積極的に摂っていくのが良さそう
他にも、表皮に存在する、免疫作用を持つランゲルハンス細胞を抑制してしまったりもするようです。ちなみに、ランゲルハンス細胞はアトピー性皮膚炎の説明においても顔を出します 4。
もしかしたら、ニカブを着用する地域では肌年齢が実年齢より若かったりするのではないでしょうか。気になります。
私はニカブは着用しないので、サンスクリーン(日焼け止め)を使用するのが良いのでしょう。
サンスクリーンの仕組みも興味深いです。有機化合物系サンスクリーンの場合、単結合と二重結合が交互になっている共役系の動き回っている電子が紫外線を吸収するようです。これはユウメラニンが紫外線を吸収してくる仕組みと同一です。
例えば、私が顔の日焼け止めに使っているマーメイドスキンジェルUVの成分を確認すると、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル が含まれています。UVBに該当する310nm周辺の波長の光を吸収するようです。共役系の電子が動ける距離によって吸収できる波長が変わるようです。そのため、複数の有機化合物を組み合わせることで隙のない守りを形成できます。
ヒトを使った化粧品成分の有効性の確認
化粧品ならではの実験方法だなあと感心したのが、無作為化二重盲検法分割顔面試験です。
各被験者の顔の半分ずつにプラセボと有効成分を塗るそうです。
効果があるほど左右差が出てしまうので、被験者は内心複雑かもしれません。しかし、標本サイズが大きくなくても、効果の有無を確かめやすい良い方法だなと思いました。
Footnotes
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一人ひとりの人間が日常生活を送る中で自ずと身につけている、この世界を説明/理解する枠組みを素朴理論と呼ぶ。素朴物理学は、身の回りの物理学的現象に関する素朴理論を指す。科学的思考入門 を参照。 ↩
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アデニン(A), グアニン(G), シトシン(C), チミン(T)のこと。DNAのバックボーンを構成するヌクレオチドから飛び出した櫛の歯のような部分。 ↩
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アレルギーの科学 なぜ起こるのか どうして増えているのか を参照。TSLPというサイトカインがランゲルハンス細胞の機能を変化させ、「炎症のスイッチ」となる。 ↩